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クレジットカウンセラー資格制度

では、どうすればクレジットカウンセリング制度をソフトランディングさせることができるのだろうか。現状では前述のとおり、クレジットカウンセリングを主業務と行っている団体は限られている一方で、クレジットカウンセリングも行っている団体は無数に存在している。そのようななかで理想的なクレジットカウンセリングを行う団体を新たに設置するのは、行政サイドとしては象徴的な存在として意義のあることであろうが、その他のクレジットカウンセリング機関の存在意義や業務範囲の見直し、人材活用の非効率化など、クレジットカウンセリングの現場の混乱を引き起こすだけである。

アメリカではCCCSをはじめさまざまなクレジットカウンセリング機関が存在しているが、CCCSでクレジットカウンセリングを行うカウンセラーについては資格要件がある。その資格を付与する団体として、NFCCが存在する。 NFCCはCCCSの上部団体として1951年に設立され、消費者に質が高く調和のとれた金融教育、予算カウンセリングならびに債務問題解決サービスのアクセスを提供することを使命とし、債務整理のプログラム開発やデータの集計、カウンセラーの資格認定を行っている。

NFCCによる有資格のカウンセラーになるためには、まず心理的ケアおよび消費者教育の技術を深く身につけるべく、12冊にも及ぶテキストによる学習を行わなくてはならない。その後、90日間に及ぶトレーニングが行われるが、オブザーバーの管理のもとに数件のカウンセリングを行い、トレーニング終了後1年以内に資格認定テストを受け、合格した場合にのみ有資格のカウンセラーとして活動することができるのである。

なお、12冊めテキストのうち最初の6冊にはそれぞれテストがあり、6教科すべての試験を1年以内にクリアしなければならない。さらに試験に合格した後も、技術向上のためにセミナーへの出席、レポートの提出が義務づけられている。このように厳しい条件のもと、クレジットカウンセラーの資格が認証されるわけであるが、これは、カウンセラーに対しては消費者教育・債務整理・心理的ケアの3つそれぞれについて、債権者との協力のもと問題解決にあたる能力・スキルをもっていることが理想として求められるからであり、常に技術の維持・向上に心がけることが求められるからにほかならない。

債務整理に特化したクレジットカウンセリング

ヤミ金も従前の「強行取立て」「高金利」という特徴がなくなり、金利は40~80%前後で強行取立てもしないばかりか返済相談にも乗るという、多重多額債務で消費者金融から借入れができなくなった債務者にとってありかたい業者が「ソフトヤミ金」として登場するようになっている。このソフトヤミ金は、規制強化によって登録業者としては活動できなくなった小規模貸金業者が行っているといわれているが、前述のとおり登録業者がピーク時の1割以下まで減少していること、また以前に登録業者として業務を行っていたならば貸付や返済相談のノウハウを十分にもっていることなどから考えれば、その推測も十分に頷けるものがある。

では、なぜこのようなソフトヤミ金なるものまで登場してくるようになったのか。それは、クレジットカウンセリングが過払い金返還請求に集中した結果といえるだろう。過払い金返還請求では、現在の生活苦を引き起こしたライフスタイルを見直すことなく、電車の広告にあるように「人生最高のボーナス」を手にすることができる。もともと家計管理がうまくいかなかったために債務を負担せざるをえなかった人にとっては、家計管理の見直しをしなくても一時的に問題は解決したように感じるであろう。結局、過払い金返還請求のみでは対症療法でしかなく、原因療法、つまり生活のメンテナンスを行わなければ再び家計収支のバランスが崩れることは火をみるよりも明らかである。

その結果、人生最高のボーナスを使い果たしてしまうと再び借入れをしなければならなくなるが、過払い金返還請求を一度行うと消費者金融からの借入れは不可能となる。しかし家計における資金調達は、市場原理で「金利が高いから惜りない、金利が低いから借りる」のではなく、「生活していくために必要だから借りる」のであり、確実に貸してくれる業者にアプローチすることになる。それは火急の資金であればなおさらであり、転々と貸してくれる業者を金融機関から順に探している時間などない。最終的には「無審査・無保証」を売りにするヤミ金におのずと導かれることとなるが、ヤミ金が怖ければそれよりもましなソフトヤミ金にアプローチすることは、生活苦で苦しむ人たちにとってはある意味当たり前の行動、合理的な行動ということになるのである。ここに消費者教育や心理的ケアの意義・必要性がある。

消費者教育、特に金銭管理教育によって家計の収支バランスを保てるようにすること、また人生設計に合わせた貯蓄の必要性を理解すること、収入を増やす努力の方法を学ぶことは、このような事態に陥ったときに少なくとも「習ったことがある」というだけで精神的な安定へとつながるだろう。さらに、一度債務整理を行った後に原因療法としての心理的ケデを受けることは、その後の生活再建をより有意義なものとするに違いない。ヤミ金問題は法改正以前から懸念されていた問題である。この問題は先の調査結果で示された、たかが1,200人中の7.3%(88人)と考えて無視することもできよう。しかし多重多額債務問題に限らず、環境問題や格差問題などその対処の遅れゆえに社会問題化したことを考慮すれば、セーフティネットとしてのクレジットカウンセリングの見直しに着手する必要性がある時期に来たといえるのではないだろうか。

債務整理に特化したクレジットカウンセリング

こうしてクレジットカウンセリングは「過払い金返還請求」に特化した形で進められていくことになる。なぜなら、「儲けすぎた消費者金融会社」によって「多重多額債務者にさせられたのであり、それを解消することが法のコア・コンセプトである以上、過払い金返還請求こそが法の精神を最も遵守する行為ということになるからである。その結果、消費者金融会社を中心として事業者向け貸付会社も過払い金返還請求が集中することとなり、2007年9月に東証1部上場のクレディアが民事再生法の適用を申請したほか、商工ローン大手のSFCGも2009年2月に経営破綻に追い込まれた。

GEやシティといった外資系の撤退も相次ぎ、さらに同年9月にはアイフルが債務猶予要請を発表するなど貸金業全体が急速に縮小している。 1985年3月末に4万7,699社あった登録業者数は毎年急速に減少を続け、2010年2月末には4,254社にまで縮小し、約11%にまで減少してしまっている。また、アコム、プロミス、アイフル、武富士の大手4社の融資残高も2003年3月末の約6兆円から2009年3月末には約3.6兆円まで減少しでおり、市場の急速な縮小ぶりがうかがえる。こうして法改正は過払い金返還請求を促し、それが消費者金融市場の急激な縮小へとつながっているのであるが、それはまたヤミ金問題を浮上させることとなる。

2007年よりインターネットを利用した「消費者ローン利用者調査」を毎年行っている。この調査によると、以前は「絶対に返済できる」という自信家がヤミ金に接触する傾向が強かったが、近年ではその傾向は小さくなり、一般的な人がヤミ金にアプローチする傾向があることを報告している。また2008年と2009年、資本金2,000万円未満、従業員5人以下の全国の零細事業主約1,200人を対象に実施した返済期間6ヵ月以下のつなぎ資金調達についてのアンケート調査では、借入先上位が1位親族・知人、2位消費者金融・クレジットカードと続き、ヤミ金が5位にランクづけされるとともに、回答の比率が前年の5.5%から7.3%へと増加する一方、消費者金融・クレジットカードが37.9%から28.5%へと減少している。これは、規制強化により借入れが不可能となった人たちがヤミ金に流れていることを示す重要なデータといえよう。

消費者教育と心理的ケアの必要性

法改正は「空気(ムード)」が醸成された結果であるとしている。多重債務問題が叫ばれていた当時、過剰な取立てが大手消費者金融会社で相次いで発覚することとなったため、「消費者金融会社が多重債務を製造している」「消費者金融会社は儲けすぎている」という「空気」が形成されたとしている。この空気が一度形成されると、残念ながらデータや理論的論証は二の次となり、「消費者金融会社=悪」というコア・コンセプト(中心的概念)が形成され、それにそぐわない考え方は排除されてしまうことになってしまう。

そのため多重多額債務問題解決のための方策は、まず「消費者金融会社が多重債務を製造している」というコンセプトに対しでは「総量規制の導入」を、また「消費者金融会社は儲けすぎている」というコンセプトに対しては「金利の引下げ」で対応することになったというのである、しかも、この2つは多重多額債務を形成する二大要因であるとされた。債務者の生活苦は借金の総額が少なくても高金利であれば生じるし、金利が低くても多額を借り入れればやはり生活苦を引き起こすと考えられたからにほかならない。そうなると、多重多額債務問題の解決策として「クレジットカウンセリング」を考えることはコア・コンセプトに反するわけであり、ゆえにクレジットカウンセリングの必要性は感じるものの主要な対策ではないという位置づけになる。

前記のような条文において「相談または助言」という限定された形で登場することにならざるをえない。この結果、カウンセリングとは法律上「相談または助言」であるから、「家計において何らかの問題を抱え、自らの力では解決処理ができない状態である個人に対し、一定の訓練を受け資質を備えた人が、望ましい人間関係のもと、主として直接面接により問題の原因追究・解決を目指し、さらに積極的に個人の家計管理等経済活動の深化・成長を促進する過程である」などというクレジットカウンセリングの煩わしい手続や過程は必要ではなく、消費者金融の金利引下げと総量規制の導入で事足りるということになるのである。

貸金業法におけるクレジットカウンセリングの位置づけ

クレジットカウンセリングの本格的な導入が待たれるところであるが、その議論はどうなっているのであろうか。クレジットカウンセリングがわが国の法律に登場するのは、2006年12月に成立した「貸金業の規制等に関する法律の一部を改正する法律」(貸金業法)である。この法律は多重債務者に対する総合的政策を講ずることを目的として制定されたものであり、法改正の主要なポイントは以下のとおりとなっている。

I貸金業の適正化
1貸金業への参入条件の厳格化
2貸金業協会の自主規制機能強化
3行為規制の強化
4業務改善命令の導入

Ⅱ過剰貸付の抑制
1指定信用情報機関制度の創設
2総量規制の導入

Ⅲ金利体系の適正化
1上限金利の引下げ
2金利の概念
3日賦貸金業者および電話担保金融の特例の廃止

Ⅳヤミ金対策の強化

Ⅴ多重債務者問題に対する政府をあげた取組み

Ⅵ経過措置

これらの改正ポイントは、概ね多重多額債務問題解決のための方策として導入されたものであるが、適合性の原則により、多重債務者の発生を抑止するために貸金という商品(金融サービス)の価格と(金利)と総量(与信限度)を制限し、さらに、一定の予防策や事後救済策を講ずることによって多重多額債務問題を解決することを目指して改正されたとされている。すなわち、多重多額債務問題を解決するための主要策は「金利の引下げ」と「総量規制の導入」ということになる。クレジットカウンセリングについては、一定の予防策や事後救済策の1つとして取り上げられることになるが、実は法律の条文に「クレジットカウンセリング」という言葉が出てくるわけではない。

関連条文としては貸金業法第12条の9があり、「貸金業者は、資金需要者等の利益の保護のために必要と認められる場合には、資金需要者に対して、借入れ又は返済に関する相談または助言その他の支援を適正にかつ確実に実施することができると認められる団体を紹介するよう努めなければならない」とされ、貸金業者は資金需要者、すなわち債務者が借入れや返済が困難な場合には、相談機関を紹介することを努力義務として、多重多額債務問題の解決策の1つとしてカウンセリングを受ける機会や窓口を設けることが謳われている。この条文は非常に画期的ではあるものの、実際の運営にあたってはかなり問題があると思われる。

ここにおけるカウンセリング機関として考えられているのは、法テラス、日本弁護士連合会、日本司法書士会連合会、日本クレジットカウンセリング協会、および日本貸金業協会と考えられている。これらの機関が問題なのではなく、これらの機関のうちクレジットカウンセリングを主業務として行っているのは前述のとおり日本クレジットカウンセリング協会のみであるという点である。繰り返すが、クレジットカウンセリングは「消費者教育」「債務整理」「心理的ケア」という3本柱を整えることによってはじめて円滑に機能するものである。しかしながら現在行われているクレジットカウンセリングは、過払い金返還請求を中心とした債務整理に特化したものとなっており、消費者教育も心理的ケアも法改正後に特別な措置を受けて取り組まれているわけではない。

クレジットカウンセリング関連のNPO法人

クレジット・サラ金被害者の会もクレジットカウンセリングを行う代表的なNPO法人であるが、その他にもクレジットカウンセリングを行うNPO法人が多種多様な形で存在している。インターネットで「クレジットカウンセリング NPO法人」で検索すると、実にヒット数が8万3,400件にも及ぶ。もちろん、1つのNPO法人で複数ヒットする場合もあるし、クレジットカウンセリングを紹介しているにすぎないものもあろうが、クレジットカウンセリングを行っているNPO法人が多数存在していることは、この数字から推測することができよう。

しかし各団体のホームページをみると、債務問題に限らずさまざまな問題に対応する総合的なカウンセリングを行うNPO法人であったり、逆にクレジットカウンセリングの一部(たとえば消費者教育)を専門に行うNPO法人であったりといった具合で、総合的なクレジットカウンセリングを行っている、あるいは行っているであろうNPO法人はなかなかヒットしない。さらには、クレジットカウンセリングを行うNPO法人であるとしているものの、実際には相談を受けるためには入会しなければならない。

債務問題を抱えた人にとっては高額な入会金をとる団体もあり、NPO法人だからといって必ずしも安心して相談できるとは限らないものも見受けられる。債務問題を抱えている消費者は、非常に神経質になっておりかつ疲れ果ててしまっており、自力で健全で安心なNPO法人にたどり着くまでには時間がかかりすぎる可能性がある。クレジットカウンセリングを行っているNPO法人を統括し、カウンセラー資格付与を行う上部団体の設立が待たれるところである。