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クレサラ被害者の会

実は少し前まで、この会社法改正があったことを、恥ずかしながらわたしは知らなかった。周囲にも、法改正を知らず、相変わらず破産者は取締役になれないと考えている弁護士が何人もいた。この事実は、それほど破産者が取締役になるというのが現実化していないことの反映でもあるだろう。現在の日本では、ひと頃よりは少なくなったとはいえ、10万人以上の破産者が毎年生まれているから、江戸時代の「三郷借家請負人」のような「社会的設備」の必要性ははるかに大きい。

しかし、国はそのような対策をまったく考えていない。それにかわるものとして存在するのが、全国各地にあるクレジット・サラ金被害者の会である。各地の被害者の会の多くは、長屋を提供するなどの「社会的設備」のようなものこそ実現できていないが、勉強会やレクリエーション活動などを通じて、クレジットやサラ金などの多重債務を抱えて悩んでいる人たちの心の支えになっている。この事実は、もっと社会的に評価されていいことではないだろうか。

全国各地にある被害者の会は年に1回の全国交流集会をもつほか、九州ブロックや中国ブロックなどブロックごとに交流をしている。29回目の全国クレサラ被害者交流集会は2009年11月に北九州市で開催されたが、参加者数は1,500人である。各地の被害者の会は、自治体による多重債務対策会議のメンバーになっているところもあり、ようやく社会的に認知されてきている。しかし多くの被害者の会は、債務を抱えて悩んでいる人からの少額の会費収入のほか、有志からのカンパに大きく頼っており、その財政基盤はきわめて脆弱である。

破産者は取締役の欠格事由ではなくなった

江戸時代にも「分散」と呼ばれる自己破産の制度があり、よく利用されていた。井原西鶴の『日本永代蔵』(岩波文庫)には、この分散の実情が詳しく紹介されている。金持ちの商売人の破産は、昔は4億円の借金で評判になっていたが、最近では14億円とか16億円という高額の破産があるという。そして、西鶴は商売人の破産の原因として女性問題と投機の失敗をあげている(『西鶴織留』)。現代日本でも似たようなものである。そして、大阪(当時は大坂)では、商売人が商取引に失敗して分散することが多かったことから、分散した人を収容して再起させるために「三郷借屋請負人」の制度が設けられていた。

これは、大阪三郷に1ヵ所ずつ、分散した人を収容する長屋を設け、「請負人がその長屋の世話人となって長屋を貸与し、財産を再興して他日復権の日を期せしむる一種の社会的設備」であった(小早川欣吾『近世における身代限り及分散続考』法学論叢第44巻第1・2・4号)。2006年の会社法改正(会社法第331条第1項)によって、株式会社の取締役の欠格事由から破産者であることが削除された。それまでは、破産宣告を受けて復権しない者は取締役になれないと商法に明文の規定(第256条の2)があった。

この法改正は、債務者の再出発をより容易なものにすべく、再出発の障害となるものを少なくしようという政策的配慮によるものである。ただし、現実には破産した人が再起したとしても、会社の取締役になるという例はあまり多くないのではないだろうか。というのも、たとえ借金を帳消しすることに成功したとしても、精神的なダメージから脱却できているとは限らない。再び会社を経営するほどの自信と意欲を回復する人は少ないのが現実である。

欧米の動向とわが国へのインプリケーション

アメリカのシステムをそのまま日本に導入することははたして可能であろうか。いまの日本では、このシステムを導入することはむずかしいであろう。何分にも、自己破産に対する考え方の違い、クレジットカウンセリング機関や制度が未発達であること、借金に対する差別的な視線、債務問題は貸し手のみの問題といった風土や文化がある以上、多くの人に好意的に受け入れられることは困難であると考えられる。また、横並びおよび縦割り意識の強い行政運営において、クレジットカウンセリング機関の認証となればさらに困難を極めることになろう。アメリカ以外の国、特にヨーロッパではクレジットカウンセリングはどう展開されているのであろうか。

イギリスでは、市民アドバイスビューロ(Citizens Advice Bureau:以下、CAB)を中心にクレジットカウンセリングが展開されている。CABは日本の消費生活センターと同様に、市民のあらゆる相談を受け付け解決できるように導いている機関である。市民が抱える問題の1つが債務問題であり、やはり債務整理を中心として消費者教育や心理的ケアが行われている。その際最も重要なことは、国民全体で討論し、何を行うことがベストな選択なのかを考え、国民が納得したうえで行動に移される、という点であろう。たとえば動物愛護精神の強い国民性ゆえ、ペットの餌代も生活経費として認められている。同国ではこのCABを中心に、クレジットカウンセリングを専門に行うマネーアドバイス協会(MAA)やCCCSが存在している。

フランスでは、ニエルツ法を中心とした債務整理手法を使ってクレジットカウンセリングが行われている。フランスで最も特徴的なポイントは、クーリングオフ制度および債権者に対する債務内容の告知義務など消費者保護に関する法律を制定し、住宅取得に関するアドバイスを行うなどの公的機関を整備したうえで、消費者を「一人の自立した大人」と考えクレジットカウンセリングが行われているということである。したがって債務問題を抱えた人に対しては、自らの責任において返済することをよしと考え、ニエルツ法に基づき過重債務委員会が決定した債務返済案に基づき返済していくシステムをとっている。

ドイツは厳格な国民性を反映して、日米に比較すると非常に厳しいシステムとなっている。まず債権回収の権限として、金融機関に30年間という長い期間が与えられている。これを背景として1999年に自己破産制度が導入されたが、債務者が自己破産を申請しようとする場合、まず自己の収入を増やす努力を行い、生活改善を行い、それをソーシャルワーカーやカウンセラーとともに考え実行し、かつそれがうまくいかない場合に破産カウンセラーと相談し、同様のことを検討することとしている。

それでもうまくいかないときに自己破産を申請できるが、自己破産の決定がおりても7年間は最低生活費で生活し、残余の収入はすべて積立金に積み立て、その後7年後に積み立てられたお金を債権者たちに分配して、はじめて残債務が免除されるというものである。欧米のシステムをみてもわかるとおり、債務整理の仕方やクレジットカウンセリングのあり方・組織等、どれをとってもその国の国民性や文化・風土が反映された形で導入されている。最初に取り上げた世界的不況、またアメリカの破産法改正など、クレジットカウンセリングをめぐる環境は大きく変化しつつある。このような環境変化が日本におけるクレジットカウンセリングを考え直す1つのきっかけとなり、そこから日本の国民性や文化・風土に適したカウンセリングのあり方があらためて模索されていくことを期待したい。

アメリカの破産法改正

改正破産法においてクレジットカウンセリングが破産手続の1つとして導入されたことは画期的である。とはいえ、アメリカにおいても日本と同様にさまざまなクレジットカウンセリング機関が存在しており、劣悪なカウンセラーの存在や過剰な手数料をとるところも見受けられるなど、今日では「クレジットカウンセリング産業」とすら呼ばれるようになったことから、プリ・カウンセリングとポスト・エデュケーションを行えるカウンセリング機関の認証を行っている。その認証基準は7つの項目からなる。まず、「①NPO法人であること」と「②理事会はその事業に関することで利益を得ないことを明記すること」があげられている。

これは、営利団体ではないこと(非営利性)が求められていることを意味する。前記のようにクレジットカウンセリング産業と呼ばれるようになってしまった状態で営利団体まで認めてしまうと、カウンセリング目当ての勧誘が増大し、かえって法改正の目的を果たすことができなくなるからである。次の要件は、「③経営者は、背景(バックグラウンド)、経験、カウンセリングの質に対して責任をもつこと」と「④カウンセラーの質においての決まりがあり、カウンセラーは適切な金銭教育を受けた者であること」である。これは、劣悪なカウンセリングによって不安と恐怖に飲み込まれている相談者をさらに窮地に追い込むことを回避すべく、カウンセラーの資質が一定の水準にあることが保証されるよう求められている点を念頭に置いている。

これに対しては、NFCCのような機関によるカウンセラー資格制度が有効に働く。加えて、「⑤カウンセリングの手数料はリーズナブルであること」が求められている。金額としては無料が理想的であるが、50~75ドル程度を上限としている。これも、相談者から必要以上の手数料を徴収すれば相談者にさらなる負担を課すことになる点や、クレジットカウンセリング産業と呼ばれるような本来の目的から逸脱した不名誉な状態からの脱却を目指すことを意識しているといえよう。最後に、「⑥経営の安定性」と「⑦法令順守」が掲げられている。

当然のことではあるが、「持続可能性」と「コンプライアンス」という「社会的責任」を果たせない機関では困るからである。このようにアメリカでは、同国の文化に根づいた形での法改正が行われたと評することができる。それは開拓者精神、アメリカンドリームといわれるように、リスクをとって行動した結果うまくいかなかづた者、つまり正直な債務者の救済を目的として、決して自己中心的ではない、よい意味での「個人主義」を守りつつ、個人の能力・可能性を引き出す形で「自己破産」という出来事をとらえられる機会を提供するシステムといえよう。

アメリカの破産法改正

アメリカでは、破産件数が1994年の約83万件から1996年には100万件を超え、2003年には160万件へと、10年足らずで約2倍に増加した。これには、弁護士の広告活動の自由化、業者の市場拡大をねらった安易な貸付などさまざまな要因が指摘されてきたが、その1つとしてカウンセリング機関の質の問題、詐欺的破産申請等をあげることもできる。そのため、同国では破産者急増の改善および債務者の救済、特に「正直な債務者」に対する救済を目的として破産法が改正され、2005年10月17日から施行されている。

この破産法改正の特徴は、①破産申請の180日前にプリ・カウンセリング(事前カウンセリング)が義務づけられたこと、②破産にあたってはミーンズテスト(資力調査)が導入されたこと、③破産決定後にポスト・エデュケーション(債務者教育)が義務づけられたこと、の3点である。ミーンズテストとは、破産申請者の家計収支を考慮して破産を決定する手法である。具体的にはミーンズテストは2段階に分かれている。まず第1段階は、破産申請者の所得が各々の州の所得の中間値よりも高いか低いかの判断である。この中間値よりも破産申請者の所得が低い場合には、返済が免責される7章破産の申請を行うことができる。

一方、所得が中間値よりも高い場合には、第2段階として申請者は「支出報告書」に自己の支出の詳細を報告しなければならない。そして控除対象の項目を差し引いで100ドル以上残る場合には、収入のある債務者が裁判所で認可された計画を遂行することによる再建を想定した13章破産を申請することになる。また100ドル残らない場合でも、支出内容を分析して実際には支払が可能であると判断された場合には13章破産へ、そうでない場合には7章破産を選択させる内容となっている。プリ・カウンセリングとポスト・エデュケーションは、破産申請前および破産申請後において金銭管理に関する教育を受け、本人の生活改善へとつながるように導くものである。

特にプリ・カウンセリングは「破産だけがとるべき道ではない」ことを理解してもらうためのシステムであるといえる。このプリ・カウンセリングとポスト・エデュケーションの内容は、予算開発(Budget Development)、金銭管理(Money Management)、賢いクレジットの利用(Wises Use of Credit)、消費者情報(Consumer Information)からなり、①面談によるもの、②電話によるもの、③インターネットによるもの、という3つの教育方法が認めちれている。なお、教育時間は最低2時間とさ
れている。

日本におけるクレジットカウンセラー資格制度

日本における公的なクレジットカウンセリングを行うための資格制度は存在していない。クレジットカウンセリングを行うカウンセラーは実にさまざまな資格を取得することによって、その活動の一部としてカウンセリングを行っているにすぎない。たとえば、債務整理であれば弁護士や司法書士の資格を得たカウンセラーが、消費者教育であれば消費生活アドバイザーやファイナンシャル・プランニング技能士の資格を取得したカウンセラーが、心理的ケアであれば臨床心理士等の資格を取得したカウンセラーが、本来業務の一部としてクレジットカウンセリングを行っている。

だが、クレジットカウンセリングを行うにあたっては、消費者教育・債務整理・心理的ケアの3つの範疇を少なくとも理解したうえで行われるべきであろうレクレジットカウンセラーの資格をめぐっては、フィナンシャルカウンセリング研究会(FCF)の『フィナンシャルカウンセリング研究会報告書』において、「金銭管理カウンセラー」という名称で提言がなされている。以下、その提言のポイントを概観する。本報告書では、まずカウンセラーの資格化について「はっきりとした技能ないしはカウンセリング自体が一定のレベルで行われることを保証するという必要性のため」に行うべきであることを提言している。

そして、その資格については、①資格認定について統一性が確保できる、②資格に対して利用者からの信頼が得やすい、③資格制度・認定制度も含めて、その運営について国もしくは公共団体からの予算措置が得られる可能性が高い、という理由から国家資格あるいは公的資格とすべきであることもあわせて提言している。資格認定の判断要素としては、①金銭にかかわる問題であることから多債務問題の本質に理解があるかどうか、②金銭管理カウンセリング技能が備わっているか、③家計管理に関する理解と知識があるか、④債務整理や法的手続の基本的な知識があるかを指摘、さらにカウンセラーの倫理と個人情報保護についても要件としてあげている。

なお、資格付与にあたっては、ペーパーテストのみならず、カウンセラーとしての資質を判断するためにロールプレイによしる判断を取り入れることを提言している。さらに、良質なカウンセラーを確保するためにカウンセラー養成機関の設立も提言している。カウンセラー資格の制度化は、債務問題を抱えた債務者のみならず、家計
管理あるいは経済的将来に不安を抱える消費者にとぅても、個人の相談に乗ってもらうにあたって有用な制度である。

それは、わが国には多種多様なクレジットカウンセリングを名乗る機関が存在するものの、債務者にとってはどこが自分に最も適切な機関であるのかわかりにくいからである。債務問題は画一化されたものではなく、個別の事情を原因として個別の経過をたどり、そして同一の結果としての債務問題へと姿を現すのであり、したがって個人の事情を理解し、あらゆる可能性を提示できる能力を有するカウンセラーが存在することが何よりも必要である。国家資格であれ、公的資格であれ、民間資格であれ、消費者が信頼を寄せることができるカウンセラー資格制度がわが国にも確立されることが望まれる。